扇風機をめぐる冒険(若き勇者たち)


エクストリーム・犯罪予告*1 - 最終防衛ライン3

はてなブックマーク - ネットでの犯罪予告は、それ自体が悪いのではなく、悪いのは通報者の場合も - kentultra1の日記


思い出した話があって、それは鴻上尚史が20年前に書いたエッセイで手元に本がないどころか内容的にもうろ覚えなので相違があるかも知れないが、記憶で書く。

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自身の劇団を立ち上げるとき、誰を誘う腹積もりかと問われて鴻上は名前を挙げた。え、とその名を聞いて相手は固まる。確認するように鴻上に問う。おまえは本当にあいつを誘うのか。その含意するところを鴻上も知っていて、というのは早稲田の演劇仲間において語り草となっている逸話があったのだった。


「あいつ」が入学した当時、その演劇サークルでは新入生を交えた席での無礼講の際に恒例行事があった。当然深夜の学内で男だらけで酒盛りしているのだが、校門からそれなりに離れた場所に交番があって、宴席の誰ともなく度胸試しということでその場で脱いで全裸になり、人気のない夜道をその交番まで歩いていって、おまわりさんに見せつけて帰ってくる。それを見届ける奴もいる。男塾とかホモソーシャルとか言わんでもヒドイ話だが、皆で盛り上がった末のことであり、またそういう豪傑ばかりのしかしながらリベラルなノリだったそうで、新入生への強制とかではなかった、そう。


そして交番のおまわりさんもわかっているので、内心は知らず特段反応しない。殊更におまわりさんへの敵意があったということでもなく、要するに酒の肴、度胸試しとは名ばかりの暗黙の出来レースであった。詳しくは知らないのだけれども、『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』というのもこういう話なのだろうか。時代性というものがある。そういう時代、そういう年頃であった、ということ。いや私は大学生であったことがないのでこのような世界と世界観がよくわからないのだが。


その夜更けも野郎同士で盛り上がり次から次と名乗りを上げて交番に全裸で特攻し無事帰還してオーッとなるのだった。永遠に歳を取ることないキルドレたち。我が我がと志願する流れの中、その新入生が自分もと名乗りを上げ、行ってこい行ってこいとの先輩の歓声に押されて服を脱ぎ捨て解き放って出動したそうな。


暫くして、帰りが些か遅いなと誰ともなく思っていた宴席に見届け役が駆け込んでくる。表に彼らが飛び出すと、背後の懐中電灯に照らされ怒声を背に必死の形相で開け放たれた校門めがけて駆けてくる先程出動した全裸の新入生の姿が。あたかもトライポッドに狩られる群衆のように、彼はおまわりさんに追っかけられているのだった。逃げ回った挙句のことらしく、こっちに向かって全力疾走してくる、全裸で。解き放たれて。


敷地内に駆け込んでしまえば、大学構内であるからして、おまわりさんも簡単には手を出せない。がんばれ! あと少しだ! 彼らはその勇者に大声で言う。そして逃げきれそうな勇者が校門まで数メートルに達したとき、彼の目の前にパトカーが回りこみ、背後から追い付いたおまわりさんと共に彼を車内に押し込み、おまわりさんも乗り込んで、走り去ったのだった。


後に残されたのは、呆然ともはや誰の姿もない静かな校門を見つめて立ちすくむ先輩ほか新入生たち。酔いもすっかり覚めた誰かが見届け役に言う、何があったんだ。見届け役は答える、想定外だった、まさかあいつがあんなことをするなんて、そんなバカだったなんて。


彼は全裸で交番の前に仁王立ちし、のみならず、視線を向けるおまわりさんに向かって、自分のちんこを指差し、そしてそのちんこの先を指でつまんで扇風機の羽のようにクルクルとふるんふるんと回して見せたのだそうな、暫し。あいつがあんなバカだったとは思わなかった、一部始終を目にした見届け役は遠い目をして言った。

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数年後、鴻上尚史は問い質される、おまえは本当にあいつを誘うのか。そう鴻上に問うた相手は鴻上が真っ先に声を掛けて快諾を得た友であり一番の演劇仲間だった。そのことが含意する重い十字架を受け止めつつ、ああ、そのつもりだと鴻上尚史は頷いたのだった。扇風機の伝説を背負うエースパイロットたるそのあいつが、のちに劇団『第三舞台』の主力メンバーにして鴻上の良き盟友のひとりとなったことは言うまでもない。


だから教訓は。全裸はまだしもちんこを扇風機のように回すのはやめとけ。おまわりさんに向かって、ふるんふるんと。以上。『走れメロス』ってこういう話だったか。


冒険宣言―モダン・アドベンチャー・フェスティバル

冒険宣言―モダン・アドベンチャー・フェスティバル


確かこの本に収録されていたと思う。あるいは『冒険遊戯』(弓立社)。間違いだったら御容赦。うろ覚えで書いているので事実関係が些か違っていたら申し訳ない。

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以下蛇足。官憲との空気の読み合いというのは確かにあるけれども、主導権と決定権は結局官憲にあるから。法理は行為の外形を問うし、またその気となれば幾らでも問うし、世論はことこのようなケースでは味方してくれない。あまつさえ貴方は官憲にコネがあるわけでも義理があるわけでも貸しを与えているわけでもまして弱みを握っているわけでもない。2chの管理人氏ならあるいはそうであるかも知れないが、一利用者におかれてはそうであるはずもない。コネがあろうと義理があろうと貸しを与えていようとまして弱みを握っていようと、それでも結局のところ主導権と決定権を握っているのは官憲であって、ゆえに最後にテーブルひっくり返されて一網打尽にパクられるなんていうのはよくある話。


法を侵すということは、その行為の瞬間自分が誰からも守られていないということ。「加害者」がその場で何されても正当防衛の範疇としてやむなしというのはよくある話。あるいは適正に執行された公的な職務の範疇として。だから法に守られない者はそのことを知る者はまして縁戚関係のバックさえない者は徒党を組む。私は徒党を組むことが何よりも苦手で嫌いだったので生計のためのビジネスは措き個人としては法を守り善良な市民として暮らしている。チキンレースエクストリームスポーツと言うが、法を侵す者に、その行為の瞬間自身が誰からも何物からも守られていない、きわめて無防備な状態にある、と考える者が少ないというのはどういうことかよくわからない。


立小便さえその瞬間不安が付きまとう、それは常識と思っていた、だから私は軽犯罪の類に意識して手を染めない。「要は、勇気がない」のだけれどもね。法にさえ背かれ法において守られることのない状態の人間がどういうものか、立場ある市民が痴漢等の軽犯罪に容易に及ぶのは、立場ある市民であることを根拠とする勘違い。所謂権力者であるわけでもなし、警察はそう甘いものでもないのだけれども。


貴方がホニャララでホニャララを殺します焼き殺しますと公共空間に発信元込みで書き込んだ瞬間、貴方を守るものは少なくとも法の範疇にはない、それがどういうことか、法治国家には法治国家の恐ろしさというものがある。先般の自由をめぐる議論を拝見して、法を侵すこと即自身が誰からも何物からも守られなくなりうるきわめて無防備な状態に置かれることを了解しない議論の模範を見た。むろん憲法基本的人権のことは知っている。


法の執行者たる警察官がその行動と判断において幾重にも規制され自由を拘束されていることには妥当な理由がある。全体の奉仕者としての法の執行者たらんと、皆の自由のため自身の自由を国家に委託するということ。建前でもあるけれど、建前さえない暴力装置よりマシ。法の執行者たる警察官が個人として自ら判断したらとんでもないことになる。警察に奉職する個人を貶めて言っているのではない。


37年間の孤独 - 地を這う難破船


この事件の際も個々人として自ら判断せよということになる。西部警察だって七曲署だって警察官が個人として自らの判断に基づいて被害者の人権のため仲間の死のため職責において守るべき誰かのため犯人を殴る殴る蹴る蹴る殴る蹴る撃ち殺すしている。法の執行者が法に忠実であることは公共が規定する責務である。ゆえにこそ、法を侵すその瞬間に個人の自由が存する、という議論はあるしその通りでもあるがそれはラスコリニコフの説いた自由である。ラスコリニコフの自由こそ自由の逆説を示す格好の教材であった。所謂超人思想の問題ということ。天国と思った瞬間は永遠の煉獄であった。


だから。夜更けにおまわりさんの前で全裸はまだしもちんちんふるんふるんはやめとけ、まじで。おまわりさんも自ら判断する良心持ち合わせた人間だ。バカにされたら腹が立つ。かの勇者に悪意なく単に酔っ払ってのおふざけであったことは言うまでもないとして御寛恕得られなくなったところで私にはあまり思うことがない。そして言うまでもなく、法の執行者すなわち容易には法に背かれ守られなくなることのない存在であるからこそ、警察官におかれては個人として自ら判断する自由が厳格に規制されている。


念の為にカタいことを書いておくと先の逸話における逮捕劇は不当逮捕の範疇と私は判断する。稲垣メンバーの逮捕劇さえ不当逮捕と考えるのだから札幌サウンドデモにおかれては言うまでもない。全体の奉仕者であることとは、そういうことであり、それほど重い。公務員についてまた同様であるように。なお言うならば建前において国民皆公務員の国家を社会主義国におけるスターリニズムと言いそれがおぞましかったことは言うまでもない。


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