正論とはなんぞや――「どうかと思う」とのこと

「市長」と誤記している人が抽出レスに散見されたので、え、秋葉さんが、と思ったらやはり違った。ま、その。一報に目を通したときには、仮にも公の場で、こういうことを、素で言ってしまう、歴とした社会的立場ある58歳男性というのも、「どうかと思」ったのだけれども。

あぁ、知事フルボッコか、と思って開いたら。orz.　ブクマも――改めて確認して、ホッとした。

　米海兵隊岩国基地の隊員４人が女性を集団暴行したとされる事件をめぐり、藤田雄山広島県知事が、広島市中区で20日あった「日本女性会議2007ひろしま」で、「盛り場でうろうろしている未成年もどうかと思う」と発言。参加者から「被害者に事件の責任を負わせている」と非難の声が上がった。

　藤田知事は開会セレモニーで、あいさつ。事件に言及し、「朝の３時ごろまで、盛り場でうろうろしている未成年もどうかと思うんでありますけれども、米兵による暴行事件が起きました。誠に遺憾であり、強く抗議したい」と述べた。知事の真意をただす質問が、引き続きあったシンポジウムの会場で出た。大阪府の女性(65)は「被害者に責任を負わせる発言は、人権をさらに侵害している」と憤った。

　藤田知事は取材に対し、「真意は、犯罪に遭わないリスク管理について一般論として言及しようとした」と説明した。

先ず。ブコメでも指摘している方が幾人もあるけど、「リスク管理」における当事者の不備ないし不見識を指摘することと、いわゆる自己責任論は、まったく別の話。かつ。「リスク管理」における当事者の不備ないし不見識、をもって、過失、と等式化することはできない。ケースバイケースとしか言えず、id:REVさんの指摘にもある通り、法的な議論に即する「過失」は、本件被害者には所在しないと、現行の報道からは判断し得る。そして。

山本夏彦の「セクシャル・ハラスメントがいやだったら女はズボンをはけ」がそうであったように、「リスク管理」の議論は、かく言ってよいなら「善悪の彼岸」に在り、倫理道徳の議論とは一致しない、が、同じことになっている議論を、よく目にする。「ために」しているのか本気なのか。ゆえに。

843 名前：名無しさん＠八周年[] 投稿日：2007/10/20(土) 23:08:44 id:TSOSYojhO
>>562
男はうろついてよくて、女はいけないわけ？おかしいじゃん
夜、女は襲われる前提なわけ？

よいとかいけないとかいうことではない。性犯罪者はけしからんけれどもオオカミはいるからね、ピンクレディーの歌ではないけれども、という話。それに尽きる話。倫理道徳関係ない。が。それに尽きないことを言う人もある。id:buyobuyoさんが示す「いい年してそういうことを言うとどうとられるか、どんな基地外に悪用されるのか、といった想像力」の話。

そして。知事が、自己責任論ならず倫理道徳の話でもなく、「一般論として」の、「リスク管理」における当事者の不備ないし不見識を指摘していた「だけ」であったとして、仮にも、広島県の行政の長たる貴方が言うな、という話。ゆえに。

411 名前：名無しさん＠八周年[] 投稿日：2007/10/20(土) 22:33:31 id:Xms26Fz20
>>1
＞朝の３時ごろまで、盛り場でうろうろしている
広島県知事が仰るにはどうやら朝の３時ごろまで、盛り場でうろうろ
しているとその盛り場一帯は治外法権になるらしい。

545 名前：名無しさん＠八周年[sage] 投稿日：2007/10/20(土) 22:43:05 id:CV1A27JN0
>>411
＞その盛り場一帯は治外法権になるらしい。
こういう犯罪的な拡大誤解釈が、真っ当な議論を潰してしまうんだよ。
死んでくれ。

これは545氏が正しく、「犯罪的な拡大誤解釈」以外の何物でもないけれども、また、本件については加害者は厳正に裁かれるであろうが、斯様な治安の悪い「盛り場」の存在を「問題」とするなら、行政責任が知事にも所在し、知事はかかる問題の当事者でもある。

未成年者に対する集団強姦事件の発生し得る「盛り場」の存在を、公然において前提としたうえ、他人事のように「朝の３時ごろまで、盛り場でうろうろしている未成年もどうかと思う」と言ってのけるのは、それこそどうかと思う。

ひとりの個人としての、経験を重ね世間を知る大人の、私的見解としては構わないし、私は妥当とも思うけれども、行政の長として、あまつさえ事件直後に、言うことではまったくない。「広島」や「米兵」というファクターは措いてもね。

こうした事件があったときに、行政の長に対して公に求められる言葉とは、そうしたものではない。貴方が、行政の長として、このようなことの能う限り起こらぬよう、何を為してきたか、為すべきか。儀礼に留まらない発言を、公に示す限りは、それを聞きたい。

例え話は好きではないけれども。NYの治安最悪地域で未成年者に対する集団強姦事件が発生したときに、NYの行政の責任者たる市長が、「朝の３時ごろまで、盛り場でうろうろしている未成年もどうかと思う」とか、公的には言わないだろう。治安最悪地域が存在すること自体が問題であり、そのことの責は明確に行政とその責任者に「も」所在し、無関係でありはしないのだから。

かつて。ジュリアーニはかかる責を公的に負い、「何を為すべきか」を実践し、評価は様々であるが、一定のNY市民の信頼を得た。ブコメにあったように、「○○の治安の悪さは異常」であるなら、かかる「治安の悪さは異常」な「盛り場」の存在に対して、先ず行政の責任者としての見解があって然るべきだろう、儀礼に留まらず「踏み込んで」発言する限りは。

「朝の3時頃まで、盛り場でうろうろしている未成年もどうかと思う」ではなくて。床屋談義ではないのだから。言うまでもなく、社会的な立場をもって示される発言は、社会的な立場から自由ではない。TPOとか空気嫁とかそういう問題ではない。知事として行政の長として公の場において、現在進行形の刑事事件について言及した以上、個人的な意見、では済まない。床屋談義は結構なこと、私も私的にはやる。ただし、貴方は本件について床屋談義を披露してよい立場ではない。

例えを重ねるが。我らが東京都知事石原慎太郎は、そのような言は示さないだろう。加害者は米兵であるし。いやいや真面目な話。石原氏の倫理観と道徳観念は、アレではあるがテンプレではない。かつ「治安の悪さは異常」な「盛り場」に対して、行政の長として具体的な施策を、半ば強権的に打ち出し、実施してもきた。是非は措く。

少なくとも、このようなことがあったとき、行政の長として「治安の悪さは異常」な地域の存在を前提に、「朝の3時頃まで、盛り場でうろうろしている未成年もどうかと思う」と他人事のように言い放ちはしないだろう、被害者である未成年者の不品行のみを責めはしないだろう、定例会見において米軍と米兵と不法滞在の外国人についてWikipediaの語録に追加される発言を以下略――に留まることなく、具体的な施策に反映させんともすることだろう。予期される斯様な事態こそ、深刻であるかも知れない。

それと。政治的な立場にある者の公的発言は政治的である、ゆえに政治的に紛糾しもする、というのは、あまり言いたくはないけれども、リテラシーの基礎、というか、それこそ常識の類。斯様な前提なく、良識／常識の反映としての「正論」と見なしてしまう、また当人の意識においてもそうであったろうこと、すなわち、政治的に問われることを予期しなかったことこそ「どうかと思うんでありますけれども」――私は。つまり。「朝の3時頃まで、盛り場でうろうろしている未成年もどうかと思う」が政治的な論点／争点として在る、という認識に欠ける、現代の政治家というのも。

また。本件は米兵の問題ではなく米兵のごく一部の不心得者の犯罪行為の問題である、ということになるだろうし、そのことには知事も同意するだろう。皮肉でなく、私もまた、差別が嫌いなので、そう思う。なら。「非行少女」の問題でも「非行少女」の行動の問題でもない。

知事は「非行少女」を念頭に言ったのではないかも知れない、が、現実の犯罪に対して、被害者の品行／行動をもって、事態を相対化するようなことを公に言うべきではない。「犯罪に遭わないリスク管理について一般論として言及しようとした」のかも知れないけれども、事実上、一般論として述べてはいないのであるから。「起こってしまったこと」に際して言うべきでも、本来は、ない。被害者の在る事件は、「一般論」を開陳する「契機」か、普段から言うべき也、という突っ込みは正しい。

こうした犯罪に対して、テクニカルな問題として、であれ、被害者の行動面の不備を、徒に公に指摘するべきではない、私はそう思っている。性暴力における、加害者と被害者の、また男女の、非対称性を、前提し、かつ非対称性に対する価値判断を示して、刑事司法の原則と、近代社会の原理と、対する各人の認識に、任意の価値判断から干渉／介入するべきではない。

知事の当該発言は、社会的な立場を離れたとしても、「正論」ではない。

むろん。旬のアイドルが既にえらい歳下となっていることに絶望し、「盛り場」において「未成年」を眺め、最近の若い子は発育がいいねぇ、と思うどころか口に出す、また、スカートの丈をたいへん短くしている制服女子のハラスメントに遭った云々に対して、誘ってると思われても仕方がなかったりすることはわかってるか、と直でアドバイスして本人に怒られる最悪なオッサン脳の主たる私は、とりあえず、「朝の3時頃まで、盛り場でうろうろしているのはどうか」とは、ことが起こる前に、知ってりゃ対面では言う。うざい、という顔をされる。

犯罪行為に遭遇する、他人の直接的な暴力において毀損される、ということを、年齢のゆえか、知っているふうで知らない人は、あるから。ゆえに、顔も知らないけれども、被害者を気の毒にも思う。ただ。それは、刑事司法の原則と、近代社会の原理と、対する各人の認識と、それに対する半畳とは、別なる話。

2007年10月21日 id:kurotokage トンデモ, 性犯罪　突き詰めれば女は家から出るなということに。どこにボーダーを引くつもり？男の私は未成年の時から朝まで遊んでたけど。親が言うことであって知事が言うことではない。いや親であっても被害者に言ってはいけないな。

（付記。上記見解に同意。）――繰り返すけれども。性暴力における、加害者と被害者の、また男女の、非対称性を、前提し、かつ非対称性に対する価値判断を示して、刑事司法の原則と、近代社会の原理と、対する各人の認識に、任意の価値判断から干渉／介入する言論は、少なくとも「正論」とは言えません。「正論」の語義について引いていただきたく願う。

むろん、「正論」でなくともまったく構わない。「正論」でなかろうとも、言うべきことは言えばよいし、言うべき、うんこの空中戦を前提して、と私は思うけれども。

そもそも。態々知事が公の場において苦言を呈さずとも、被害者は陰に陽に囁かれ続け、暗黙にかく見なされる。犯罪被害の事実に限ることなく、それをして自身の不品行の結果であると。それが、日本社会の一部でもあり、あるいは世間であることを、知事たる人が知らぬはずもあるまいに。「セカンドレイプ」という言葉と概念がなぜ生まれたか、多少なり思いを馳せていただきたく願う。

――未成年って19歳か。何故か、いや個人的な事情だけれども、17歳と勘違いしていた。「非行少女」とか大仰でした。19歳女性が、「朝の３時ごろまで、盛り場でうろうろしている」ことを「どうか」と、「一般論として」問うなら、私は、大きな御世話、としか。むろん、強姦されてよい人間とか、強姦されて仕方がない人間とか、いないから、近代の原理においては。倫理道徳の話でない。犯罪行為は罰される、という話。

男であるならさして危なくないことが、女であるなら時に危ない。確かに、人間世界はそういう具合にもなっている、そのことを否認し言論において捨象しても仕方がない、けれども、「だから」女は行動／品行において自重すべし、というのは、理路としては間違っているよ。明確に。id:good2ndさんが指摘している通り、「どうかと思う」は価値判断的な語彙です。知事の「真意」を尊重しても。

最後に。余談であるけれども。

535 名前：名無しさん＠八周年[sage] 投稿日：2007/10/20(土) 22:42:12 ID:R/AG74+k0
この非難してる人達は
家の鍵あけたままで遊びに行ってその間に空き巣に入られた人がいたとして
何で戸締りしなかったんだろう、とは微塵も思わないんだろうな

612 名前：名無しさん＠八周年[sage] 投稿日：2007/10/20(土) 22:47:55 id:ozCGe/Gh0
>>535
それとこれは話が別だと言い出すに100ガバス

内田裕也氏の自宅に空き巣が入ったことがある。直後に、日テレのワイドショーにてテリー伊藤氏が言っていたこと。個人的に確認したところ、裕也さん、家の窓開けたまま海外旅行に行っていたそうな。流石、裕也さん、とファンとして、他人事でもあるので無責任に言えることだけれども、言うまでもなく、窃盗犯が悪く、裕也さんの戸締りと罪状の軽重に法的にはまったくかかわりなく、また裕也さんが本気で怒っていたことは全面的に正しい。話が別、です。