朝青龍の行方


http://www.zakzak.co.jp/spo/2007_08/s2007080706.htmlメッセージ


相撲はあくまで格闘技、ということであるなら、よかったのだけれども。


でも、そうではない。公的にも「国技」と見なされている(日本相撲協会は財団法人である)し、NHKは中継するし、そのことを前提として、興行が組織され、ファンを動員し、経済が回転してもいる。「日本の国技」であることを前提に回る経済がある。それは、括弧付の「日本」や「文化」や「伝統」や「品格」と関わりなきことではない。


「外国人力士」の存在自体が取沙汰された、10数年前にも言われたこと。当時、呉智英は喝破した。「外国人力士」を排し、門戸を閉ざし、受け入れたとして実力のみを問うことなく対応に差を付すことは、むろん政治的には、あるいは道徳的には、正しいことではない。然るに。


日本の国技たるがゆえに相撲を愛するファンがあり、彼らによって大相撲は支えられている。日本の国技たるがゆえに相撲を愛する観客は、髷を結った「ガイジン」を、高い金を払ってまで升席で見たくはない。「日本の国技」なるものの意味と内実を、そうした人が省みることのなかったとしても。


むろん、政治道徳以前に、歴史に照らしても「日本の伝統的な国技」というのは、いくらか強弁である。商業の論理は、政治に道徳に歴史に時に優先する。そして。「日本の伝統的な国技」たることを前提して回る、かくいってよいなら閉鎖的な経済を、生活の基盤とする「中の人」は、必ずしも、商業の論理にのみ準拠し、強弁を自らは信じない、わけでもない。


相撲はあくまで格闘技、勝敗と強弱と、付するならフェアプレイが、土俵というリングの上での結果が、すべてであり一切、ということなら、問題はない。「選手」の国籍が何処であろうが、「チャンピオン」の行動と人格が傍から野放図に映ろうが。いわんや「しきたり」や「品格」は。その圧倒的な強さに、異論はなかったのであるから。


モンゴル出身の朝青龍も、また、「日本の伝統的な国技」たることを前提して回る興行と経済と、それを支える多くのファンの只中に、自ら望みもして飛び込み、有無をいわせぬ実力をもって若くして功成り名遂げ、また、そのビジネスとファンに支えられてもきた。当人に、支えられていた、という「自覚」があったのかは、わからない。


このようにいってよいなら。大相撲のファンには、「日本の伝統的な国技」なるものを信じる権利がある。朝青龍は、望んで横綱になった以上、それに応える義務がある。外国の「伝統的な国技」にコミットするというのは、そういうこと。相撲に限らず、結果の勝敗がすべて、勝てば万事了承、とする格闘技は、必ずしも多くはないし、スポーツとは、スポーツである限り、そういうものではない。そのこと自体の是非はあろうが。


俗に、御客様は神様、ともいう。ただし。「日本の伝統的な国技」というのは相撲協会のみが左右する専権事項ではない。横審の専権事項でもない。神様の意向を、一方的に忖度のうえ簒奪することが、相撲協会に許されているわけでもない。


昨年の今頃の、亀田×ランダエタ戦。後の疑惑とそれをめぐる狂騒に対して、興行とはそういうもの、何を今更、と指摘した著名な人があった、が、少なくとも、ボクシングがスポーツを名乗るなら、建前を建前として、通さなければ、興行自体が成立するに難くなる。少なくとも、キー局が関わる興行は。


「日本の伝統的な国技」も「スポーツマンシップ」も「王者の品格」も、むろん建前である、が、興行の「商業の論理」は、建前の存在と明示を前提として、維持されている。キー局が関わる以上は、あるいは、財団法人が主催し、公共放送が中継する以上は。ファンの支持を前提する「商業の論理」は、個々の選手ら関係者の生活を支える経済基盤である。


とはいえ。kyoumoeさんのエントリ。


2007-08-09


財団法人日本相撲協会の、心の病に対する認識がゼロであることは、知れた。入院のその前に記者会見、というのはすごい。入院が必要である、ということの意味を、理解していない。酷どころの話ではない。


相撲ファンでもない私は、入院と帰国と、いずれが当人の病状にとってよき選択であるのか、わからない。文字通りの意味で孤独な青年であったし、強気を通していたけれども、精神的に脆いところのある人だったのだな、と、26歳のドルジの窮状に思う。


それと。

島村氏はモンゴルとの橋渡しの活動で朝青龍と知り合い、3年来の付き合いだという。何も食べていないという朝青龍に高級大阪寿司を持参すると、横綱は「ご迷惑をかけまして」と、一言だけ発した。

 テレビはついていたが、横綱は見ようともせず、目を開ければ、じっと一点を見つめている。島村氏は「多少は職業柄、表情などで深層心理はわかるつもりだが、これはかなり厳しいと思った。部屋には約30分いたが、10分が2時間にも3時間にも感じた」と話した。


(中略)


 「あんな横綱はいない。あれは日本文化。このまま(横綱を)監禁していなきゃいけないのか。これで一人の青年が傷ついておかしくなったなら人道上の問題がある。2場所出場停止だって大変なこと。目的なくけいこに励めといったって並みの人間にどこまでできるか。異国の人とはいえ、一人の青年なんだから。日本の国技の中にまだまだ鎖国的な考えがあるのかな」。島村氏はそう話した。


昼のワイドショーに出演した際にも、島村宜伸氏は「証言」していた。断じて「仮病」ではない、深刻な状態にあることは、確かだ、と。


島村さん、いい人だな。少なくとも、このことについては。――不覚であるかも知れない。