うなぎ


先日、実家に立ち寄った際、選挙の話題に始まり、年金制度終了のお知らせについて等、母親と雑談した。母親は介護業界の中の人である。先般報道されていた内容は私には既知であった。実家に一時居た頃、始終内情と愚痴を聞かされていた。生活のために働くことの労苦を、心身を壊して寝込んでいた当時の私は思った。


団塊世代であるが、最初から、定年/年金関係なく、働けるまでは働くつもりらしい。還暦を回った親父とて条件は同じ。母親は、独立してひとりで仕事を続ける、との由。天は自ら助くる者を助く。土方や鳶を経て、現在も堅気の気質とはいえない親父はろくに納めてもいないそうで、そのくせ人生に元気をなくしてしきりである。自立志向、は故郷を切り離した東京の核家族の気風であった。


ふるさと納税」についてよく知らなかった母親は、息子の説明を聞いて、は?と言った。帰る気も予定も場所も良き記憶さえもないことは、息子もよく知っていた。親父は離島でひとり暮らしたいとしきりに口にしているらしい。必要ゆえの器用者で、日常的な生活能力については大変に長けているから、資金と機会あるなら暮らせなくもないだろうが、陰気な偏屈者がいっそう惚けもするだろう。なお、資金はない。


徒然と、中国産の食品の話になった。何年も以前から避けている、とのこと。むろん母親は私用でネットなどやらない。情報の問題ではなく、スーパーにて日々食材を購入し調理しているなら身に付く類の知識と感覚、とのこと。母親は港町の生まれ、魚貝類は好物で、食材の質にうるさい。


親父も料理上手であるが、腕に自信あるゆえか、あるいは育ちのせいか、食材にはこだわりないそうで、安ければ何でも買ってくると、母親はいつも苦情を言っていたとのこと。確かに。親父も、流石に最近は、中国産を敬遠するようになったそうな。


生活者の暗黙知に、改めて感心した私は、何年も、食材の質とは無縁の荒涼とした食生活を送っている、料理の甲斐性を持たない。実家に寄るたびに、不摂生を咎められ身体を心配される。まともな生き方をしていないので、借金と犯罪に手を染めていないしする予定もないことを強調するのみである。いわゆる遊興に関心ないことは知られているので、信じはするよう。


プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 (岩波文庫)

プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 (岩波文庫)


久方振りに、繰って読み返していた。率直に言って、エートスをめぐる問題なのであろうな、と思う。それをして優劣上下を付するものではない、とは但し書きしておくが、米国の食品市場には通用していない。そして、当方当地のエートスも、その欠落も、存在するだろう、正も負も。日本社会の涵養する、暗黙知は、市場において、また個々人の生活の選択において、結果としての判断を示すであろう。